仕立て室の小さな物語・第1話
値段と、
ありがとうの大きさ。
感謝の大きさを値段で量ろうとしていた、ひよりの最初の仕立て。

ひよりは、小さなメモ帳を開いたまま、同じページを三度見返していました。母が前に好きだと言ったお菓子。少し上等なストール。評判のよい宿。一つ選ぶたび、別の候補の方が感謝に近い気がします。
ひより
高い方が、ありがとうの大きさまで伝わる気がしてしまうんです。
ときさんは返事の代わりに、仕立て台へ一本の糸を置きました。糸の先は、値札ではなく、小さな引き出しへ続いています。
ときさん
値段が上がるほど、喜ぶ仕事まで増える人もいるんですよ。
ひより
喜ぶ仕事?
ときさん
驚いて、きれいに受け取って、すぐ使って、感想を伝えて。うれしくても、それを全部する余力がない日もあります。
隣で定規を持っていたそうたが、糸の長さを測る手を止めました。
そうた
じゃあ、何を買うかより、何なら気楽かを聞くのか。
ときさん
ええ。答えを当てるより、答えやすい形に仕立てるんです。
ひよりはメモ帳の新しいページに、三つだけ書きました。
- 家で30分だけお茶
- 夕食と片づけを担当
- 一緒に小さなお菓子を選ぶ
ひより
どれも違ったら、何もしなくても大丈夫、と添えて聞いてみます。
ときさんが頷くと、仕立て台の糸は、値札の前を通らず、三つの小さな引き出しへ静かに分かれていきました。